≪債務整理 借金返済≫OMCカードでキャッシング


主文

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,金30万円及びこれに対する平成12年7月28日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1,第2審とも被控訴人の負担とする。
4 この判決は,主文第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第一 当事者の求めた裁判

1 主文第1ないし第3項同旨
2 仮執行宣言
二控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二 事案の概要

一前提事実(争いのない事実あるいは挙示する証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
1 当事者
控訴人は,割賦販売の斡旋及び金銭の貸し付け等を主たる目的とする株式会社であり,貸金業の規制等に関する法律に基づく貸金業者の登録を受けたものである。
2 カードクレジット契約の締結
(一) 被控訴人は,控訴人との間で,平成6年9月11日,次の約定で,OMCカードクレジット契約を締結し(以下「本件カード契約」という。
甲1,9,12,乙1の1,1の2),本件カード会員となった。
貸付方法被控訴人は,控訴人から貸与されたクレジットカードを利用して,控訴人が指定する自動現金支払機等から金員の貸付を受けることができる。
返済方法一括又はリボルビング払いの方法により支払うものとし,リボルビング払いによる場合は,毎月末日を締切日として,貸付日の翌月から毎月27日限り,貸付残高に応じて支払う。
利息 年28.8パーセント(年365日の日割計算)
遅延損害金 年29.2パーセント(年365日の日割計算)
期限の利益喪失 被控訴人が,本件カード契約に基づく債務の履行、借金返済を一回でも遅滞したときは,被控訴人は,本件カード契約に基づく債務について,当然に期限の利益を喪失する。
(二) 本件カード規約には,カードの管理等について次の定めがある(乙1の2)。
【2条】
(3) 会員は,カードの署名欄に自署し,善良なる管理者の注意をもってカードを使用・保管するものとします。
(4) カードは,会員のみが利用でき,他人に貸与,譲渡,質入れ等の担保に供することはできません。
【5条(暗証番号)】
(2) 会員は,暗証番号を他人に知られないよう善良なる管理者の注意をもって管理するものとします。会員の故意又は重大な過失により他人に知られたことにより生じた損害については会員の負担とします。
【11条(カードの紛失・盗難等)】
(1) 会員がカードを紛失し,または盗難にあったときは,すみやかに当社に連絡の上,最寄りの警察署または交番にその旨を届けるとともに,当社所定の届出書を当社あてに提出するものとします。
(2) (1)の手続きがあった上でカードの紛失,盗難等により他人に使用された場合,会員保障制度規約の定めるところにより届出日前60日にさかのぼり,その損害金の全部を当社が補填するものとします。
【16条(信用情報機関への登録と利用の同意)】
会員は,本申込および本規約に関する客観的な取引事実に基づく信用情報が,当社の加盟する信用情報機関に7年を超えない期間登録されること,並びに当該機関および当該機関と提携する信用情報機関に登録された情報(既に登録されている情報を含む。)が,会員の支払い能力に関する調査のため当該機関の加盟会員または当該機関と提携する信用情報機関の加盟会員によって利用されることに同意するものとします。
(三) 本件カード契約においては,契約締結と同時に,会員保障制度への加入が定められており(前記規約4条。甲9。),会員保障制度規約において,本件カード契約締結当時においては,下記のとおり定められていた。
【3条(カードの紛失・盗難等の届けと損害の補填の範囲)】
(1) 会員がカードを紛失し,または盗難にあったときは,すみやかに当社に連絡の上,最寄りの警察署または交番にその旨を届けるとともに,当社所定の届出書を当社あてに提出するものとします。
(2) カードの紛失,盗難その他の事由により他人に利用された場合の損害は,当社が加入するカード盗難保険(以下「保険」といいます。)の保険約款の定めるところにより,その損害額の全部もしくは一部が保険により補填されます。
また,保険の適用が認められる場合には,保険により補填されない部分についても当社が負担するものとします。
【4条(補填されない損害)】
第3条の定めにかかわらず,次のいずれかに該当する場合には,当社はその損害について補填の責を負わず,会員が損害の全部を負担するものとします。
@会員の故意または重大な過失によって生じた場合
3 控訴人は,本件カード契約に基づき,被控訴人に対し,クレジットカード1枚≪会員番号略≫を貸与した。
なお,同カード発行に際し,被控訴人の妻Aについて,被控訴人の申込により,家族カード(本人会員が代金の支払いその他一切の責任を引き受けることを承諾した同居の家族で,控訴人が入会を認めた者。同規約1条参照。)も発行されている(甲1)。
4 本件カード契約の更新
本件カード契約においては,控訴人において当該会員が引き続き会員として適当と認めるときは,更新するものとされ(同規約2条5項),控訴人は,平成11年8月ころ,カードの更新手続きを行い,更新後のクレジットカード(以下「本件カード」という。)を被控訴人に交付し,被控訴人は,同年10月27日,同契約についての会員年会費を控訴人に対して支払った。
上記更新手続きの際に送付された新たなOMC会員規約(以下「更新後規約」という。甲2。)及びOMC会員保障制度規約(以下「更新後会員保障制度規約」という。甲2。)による更新後の規約記載中,本件に関連して変更が生じた部分は,次のとおりである。
(更新後規約)
【12条(カードの紛失・盗難等)】
(1) 会員がカードを盗難,詐取もしくは横領(以下「盗難等」と総称します。)され,または紛失したときは,すみやかに当社に電話等により連絡の上,最寄りの警察署または交番にその旨を届けるとともに当社所定の届出書を提出するものとします。
(2) 会員がカードを盗難等・紛失により,不正使用された場合でも,利用代金等の一切は会員の責任とさせていただきます。
但し,前項の手続きがあった場合において,OMC会員保障制度規約に基づき保険の適用が認められたときは,届出日前60日にさかのぼり,その損害金の全部または一部を補填します。
(更新後会員保障制度規約)
【4条(補填されない損害)】
会員は,第3条の定めにかかわらず,次のいずれかに該当する場合には,その損害について補填を受けることが出来ません。
@会員の故意又は重大な過失によって生じた場合
なお,被控訴人は,更新後規約を受領していないし,仮に受領していたとしても,同規約は,契約内容を不利益に変更するものであり,異議を述べなかったからといって承認したことにはならない旨主張するが,更新後のカード送付の際に,更新後規約や,年会費支払いの案内等の文書が一緒に送付されているのが通常であって,本件においても,これを覆す特別の事情は認められない上,更新後規約については,それが仮に不利益変更事項を含むものであったとしても,被控訴人において,異議を述べないまま,更新を当然の前提として相当期間にわたり行動している以上は,被控訴人に対しても更新後規約が適用されると解されてもやむをえないところである。
5 本件カード等の利用別表≪略≫記載のとおり,トマト銀行岡山駅前支店(JR岡山駅キャッシュコーナー)において,平成12年3月11日午後2時31分,被控訴人の所持していた全日信販カード(暗証番号は本件カードのものとは異なる)が使用されて,自動貸付機により30万円のキャッシング申込みがなされたが,暗証番号相違により利用拒否された後,午後2時32分から午後2時34分までの間に被控訴人の所持していたイオンカード,デオデオカード(いずれも暗証番号は本件カードと同一)が使用されて自動貸付機でキャッシングがなされ,本件カードの家族カード(暗証番号なくキャッシングは不可)でもキャッシング申込みがなされたが,利用拒否された(甲11)。
さらに,ダイエー岡山店において,午後2時40分に本件カードの自動貸付の融資限度額の照会がされ,同時41分に本件カードを使用してリボルビング払いによる30万円の貸付がされた(以下「本件貸付」という。)。
融資限度額の照会及び貸付の際,本件カードが自動貸付機に挿入され,暗証番号が正しく一回で入力された旨の記録が残されている(甲4)。
この機械は,まずカードが挿入され,さらに正しい暗証番号が入力されて初めて作動するものである(弁論の全趣旨)。
さらに,本件カードが用いられて,同日午後3時30分,トポス柳川店において,16万3978円の商品がクレジット購入された後,さらに,同日午後3時33分,1万306円の商品がクレジット購入されようとしたが不承認となった。
この不承認は,カードの使用状況に問題があるとみられるときにコンピューターシステムが警告を発する不正探知システムによるものである(甲5ないし7)。
被控訴人は,同日夜,上記各カードが盗難の被害にあったとして,警察に被害届を提出した。
被害届記載の被害の内容は,セカンドバッグの中にあった封筒に入れた被控訴人所有の現金約30万円,写真,被控訴人の運転免許証,本件カード,全日信販カード,イオンクレジットカード,デオデオカード(全日信販提携)及び妻名義のダイエーOMCカード(家族カード)合計5枚とするものであった(被控訴人本人)。
上記5枚のカードのうち,本件カード,イオンクレジットカード,デオデオカードの暗証番号はいずれも,被控訴人の実家の電話番号下4桁の「≪暗証番号略≫」としていた(甲1,被控訴人本人)。
被控訴人は,上記警察に対する盗難被害届出とともに,控訴人に対し,平成12年3月12日午前0時15分ころ,上記盗難事故が発生した旨,本件カードが盗まれた旨,通知し,受理された(乙2)。
6 支払請求
控訴人は,平成12年6月16日付で,被控訴人の保険適用の要請には応じられないとして,被控訴人に対して,貸金請求を行う旨通知書を発し(乙2),さらに,平成12年7月7日付請求書を被控訴人に送付し,上記貸付金の一部である2万円(元金1万5562円,利息4438円)について,支払期限を同月27日として,支払い請求した(甲3)。
7 信用情報機関への登録
控訴人は,同年12月20日,被控訴人についての信用情報登録を行ったが,被控訴人の要請を容れて,平成13年1月10日,登録削除手続を行った(甲13,乙9,証人Bの証言)。
8 保険の適用
イオンクレジットカード及び全日信販(デオデオカード)による別表@ないしB記載の貸付並びに全日信販カードによる19万7520円の商品の購入については,それぞれ,保険が適用された(乙6,被控訴人本人)。
本件カードを使用した前記16万3978円の商品購入についても,保険の適用が認められた。
9 本件請求
控訴人は,被控訴人に対し,本件カード契約に基づき,@主位的に被控訴人に対する貸金返還債権として,A予備的に(仮に被控訴人が本件カードを不正利用されたとすれば),被控訴人にカードの保管,暗証番号の保管につき重大な過失があったことを理由として,第1次的に前記4記載の更新後規約12条(2)及び更新後会員保障制度規約4条により,第2次的に前記2(二)記載の本件カード規約5条,11条,同(三)記載の会員保障制度規約4条により,被控訴人において貸付がなされたと同様の債務を負うものとして,本件の貸付機から引き出された金額30万円及びこれに対する貸付金としての約定弁済期の翌日である平成12年7月28日から支払済みまで約定の年29.2パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求めた。
二本件請求及び主張の法的再構成
1 クレジットカード契約に基づく@会員本人のカード使用の場合,A会員本人の許諾による他人によるカード使用の場合,B盗難,紛失等の結果,会員本人が他人に不正利用された場合の会員に対する各請求にかかる訴訟物の異同について
前記のカード契約,カード規約,会員保障制度規約によって定まるカード契約の内容によると,(1)会員はカード契約を使用してなした貸付,あるいは立替に基づき返還債務を負い,(2)カード紛失,盗難等によってカードが不正に利用された場合には,所定の手続きをなすことにより,上記返還債務を免れうるけれども,(3)その場合でも,カード又は暗証番号の保管について重大な過失があれば,正当貸付あるいは正当立替としての債務を免れないこととなっているものと解される。
そして,カード使用に際しては,その使用者が会員本人であるか他人による使用であるかは,店頭でのカード使用においても,貸付機によるカード使用による場合においても,識別するのが困難であるのみならず,上記の訴訟物が異別であると考えるとしても,Aの場合が代理人または補助者によるカード貸付契約として@の訴訟物にかかるものとみるのかBの不正利用にかかるものとみるのか,あるいは,カードの自己使用義務に違反したものとして損害賠償債務として捉えることになるのかは必ずしも判然としない。
また,同一のカード使用に基づく同一のカード契約上の債務であるのに,相互に既判力が及ばないものと考えるのはいかにも不合理である上,会員本人が使用したか他人が使用したかいずれであっても請求が認められることになる場合においてまで,認定困難な会員本人が使用したかどうかを決着しなければ,予備的請求の判断に進むことができない一方,その点の主張立証自体が実益のない結果に終わってしまうことにもなる。
してみれば,前記@ないしBの場合はいずれも,カード契約,カード規約,会員保障制度規約によって包括されるカード契約上の貸付,立替債務として訴訟物を同一とするものと解するのが相当である。
2 主張立証責任について
上記説示したところからすると,骨子として,(1)カード契約の締結,カード使用がカード契約上の貸付,立替債務の発生原因としての請求原因となり,(2)カードの紛失,盗難等によってカードが不正に利用されたこと,規約所定の手続きがとられたことが抗弁となり,(3)カード又は暗証番号の管理について重大な過失があったことが再抗弁となる構成で主張立証責任の分配がなされるべきこととなる。
そして,本件においては,前記前提事実から,請求原因事実及び抗弁事実中の所定手続き履践の点は明らかである。
3 したがって,控訴人の請求及び主張は,以上の観点に立って,整理されるべきこととなる。
なお,これは,訴訟資料として提供された控訴人の事実主張についての法的整理をなしたにとどまるものであるから,処分権主義,弁論主義に違背,抵触するものでないことはいうまでもない。
三争点
1 本件貸付は,本件カードの盗難による不正使用に基づくものか。
2 本件カード又は暗証番号の管理について,被控訴人に重大な過失があるか否か。
3 本件訴え提起が権利濫用に当たるか。
4 被控訴人による相殺にかかる信用毀損に基づく損害賠償請求権の有無
四争点についての当事者の主張
1 争点1(本件貸付は,本件カードの盗難による不正使用に基づくものか。)について
(一) 被控訴人の主張
本件貸付は,被控訴人ないしその意を受けた者によってカード使用がなされたものではなく,本件カードが盗難されて不正使用されたものである。
即ち,被控訴人は,平成12年3月11日午前10時ころから午後8時30分ころまでの間,被控訴人の自動車(以下「本件自動車」という。)をパチンコ店の駐車場に駐車していた際,盗難被害に遭い,上記自動車のダッシュボードに収納していた本件カードを含む5枚のクレジットカードを窃取され,その結果,本件カードが第三者によって不正使用されて,本件貸付がなされたものである。
これは次の点から明らかである。
@ 被控訴人の自動車の雨よけ,ダッシュボードには盗難時に印象された傷跡が残っている。
A 被控訴人は盗難発見と同時に警察に通報している。
B 窃盗犯人は,同一機会に窃取した被控訴人の全日信販のカードについて一番はじめに暗証番号を誤って入力してカード使用し,以後そのカードでキャッシングを行っていない。
C ダイエーオーエムシーの家族カードはキャッシング不可であるのに犯人はこれでキャッシングしようとして拒否されている。
D 窃盗犯人は午後2時41分にキャッシングを行い,それから間もない午後3時30分にトポス柳川店で商品購入した後,次の商品購入で本件カード使用を拒否されている。
E トポス柳川店でのキャッシングについて,控訴人は盗難保険で処理しており,このカード使用については控訴人は,カード盗難によるものと認めている。
F 当該キャッシングから約50分間に盗難にあったことを認めるべき証拠はない。
(二) 控訴人の反論
本件カードを用いて現金自動支払機から借入を行うためには,被控訴人の暗証番号を入力する必要があるところ,本件貸付においては,最初から暗証番号が正確に入力されており,しかも,本件暗証番号は,被控訴人の実家の電話番号の下4桁の数字であって,被控訴人以外の第三者が知る可能性は皆無に等しい。
したがって,本件貸付は,被控訴人自身のカード使用に基づくものと考えるのが合理的である。
2 争点2(本件カード又は暗証番号の管理について,被控訴人に重大な過失があるか否か)について
(一) 控訴人の主張
被控訴人には,以下のとおり,本件カード又は暗証番号の管理につき重大な過失があるから,本件カードが第三者の盗難により不正利用されたものであるとしても,被控訴人は,更新後規約5条2項,更新後会員保障制度規約4条1項により,本件貸付について支払債務を負う。
(1) カードの管理
被控訴人は,人の出入りが頻繁であり,盗難発生が十分に予想されるパチンコ店の駐車場に,約10時間もの長時間に亘って,現金約40万円とともに本件カード等を搭載したまま,本件自動車を駐車し,盗難被害にあっており,盗難被害を極めて誘発しやすい状況を作出したものである。
(2) 暗証番号の管理
本件の暗証番号は,被控訴人の実家の電話番号の下4桁であるが,本件カードを不正使用した者が何らの資料もないのに,本件暗証番号を知るに至る可能性は皆無である。
したがって,本件カードを不正使用した者は,何の資料もなく本件暗証番号を知ることは不可能であるから,被控訴人は,本件カードの盗難被害にあった際,本件自動車内に本件暗証番号を記載したメモなど本件暗証番号を示す資料を搭載していたとしか考えられない。
仮に,本件カードを不正使用した者が,クレジットカードに入力されている暗証番号を解読する技術(スキミング)を持ち合わせていたとすれば,当然窃取した5枚のカードすべての暗証番号を解読することができたはずである。
しかし,全日信販カードについては,暗証番号相違により取引が拒否され,本件カードを不正使用した者は,全日信販カードの暗証番号を解読することはできなかったし,ダイエーオーエムシー家族カードについては,暗証番号が入力されていないカードであるにもかかわらず,前記のとおり,トマト銀行において,同カードを用いて,キャッシングが試みられている。
本件カードについては,控訴人が,クレジットカードの作成を委託する際に,業者に渡す仕様書の「表面エンコードレイアウト」の中に「暗証番号」の欄があるものの,ここにカード会員が届け出た暗証番号を入力することはなく,一律に「0000」と入力されており,「裏面エンコードレイアウト」の中に「暗証番号」の欄があるものの,ここには,カード会員が届け出た暗証番号をビザカード又はマスターカードが独自の方法により暗号化した数値が入力され,カード自体には会員の暗証番号は登録されるものではなく,ビザカード又はマスターカードが会員の届け出た暗証番号を暗号化して登録した番号から,暗証番号を解読するには極めて高度の専門的知識,技術が必要であるところ,少なくとも,家族カードのように,暗証番号がそもそも登録されていないカードについては,そのような高度の専門的知識,技術を有している者には容易に判明するはずであるが,番号相違により拒否されたり,家族カードについてもキャッシングが試みられることはあり得ないことである。
(二) 被控訴人の反論
被控訴人には,本件カード又は暗証番号の管理について,重大な過失はなく,本件貸付について,本件カード契約に基づく責任は負わない。
(1) カードの管理について
被控訴人は,本件カードを含む在中品を入れたセカンドバッグを盗難にあった自動車のダッシュボードに収納し,自動車のドア及びダッシュボードの双方に鍵をかけ,外部から見えない状態で保管していたのに,各鍵をこじ開けられて盗難されたものであり,カードの保管につき,過失はない。
(2) 暗証番号の管理について
暗証番号は容易に知りえない番号に設定しており,暗証番号を示す資料を本件カードとともに保管していたことを示す具体的な証拠は全くない。
免許証の本籍の記載などから実家の電話番号を調査する手段は皆無ではなく,カード会社内部情報など暗証番号を知りうる手段は他にも存在するのであるから,他の可能性がないことを理由として資料の存在を認定することはできない。
また,カードに書き込まれた磁気情報を読みとる「スキミング」が増加しており,かかる手段により暗証番号が読みとられた可能性も否定できない。
3 争点3(本件訴え提起が権利濫用に当たるか。)について
(一) 被控訴人の主張
控訴人は,本件不正使用による貸付の約50分後に行われた本件カードの不正使用による商品購入代金の立替金については,保障制度の適用を認め,保険金請求をして支払填補をしている。
カード保管に関する重大な過失の有無については,本件貸付の場合と,上記商品購入の場合は,全く同じ状況であるのに,一方で保管に重大な過失はないとして保険金を請求して保険金によって填補しながら,他方で,敢えて保険金請求をせず,本件訴訟において保管に重大な過失ありとして訴訟提起するのは,自己矛盾の態度で,禁反言原則に反する。また,更新後会員保障制度規約3条2項の規定及び保険の費用負担は会員にさせていることからすると,保険の適用が前提とされており,カードの盗難があった場合には,保険請求すべきであった。
他の二社についての貸付についても,保険請求が行われて保険金による填補がなされている。
よって,本件貸付についても,保険請求を行えば填補可能な事案であるにもかかわらず,控訴人は,あえて被控訴人に対し,支払い請求をしており,かかる請求に基づく本件訴えは,権利濫用に当たる。
(二) 控訴人の反論
控訴人の本件訴訟は正当な権利の行使であり,権利の濫用にはあたらない。
クレジットカードを使用して商品を購入する場合には,カード所持人は,加盟店の店員に対しクレジットカードを提示して,伝票に署名すれば足りるのに対し,クレジットカードを使ってキャッシングをする場合にはカード所持人は,カードを自動現金貸付機に挿入し,さらに,4桁の暗証番号を正確に入力する必要があるという違いがある。
したがって,クレジットカードが不正使用されたことにつき会員に重大な過失があるか否かを判断するに際しては,商品購入の場合には,会員がクレジットカードをどのようにして保管していたかが問題となるのに対し,キャッシングの場合には,クレジットカードの保管状況に加え,クレジットカードの暗証番号の保管状況が問題となる。
本件カードの保管状況という意味では,被控訴人の注意義務違反について,本件貸付と前記商品購入で異なるところはないが,本件貸付に際しては,被控訴人の実家の電話番号の下4桁という特異な暗証番号が当初から正確に入力されていることから,被控訴人は,本件カードと暗証番号を記載したメモを一緒に保管するなどしていたと見るほかなく,被控訴人に本件暗証番号の保管につき重大な過失があるのは前述のとおりである。
本件暗証番号の管理について被控訴人に重大な過失があることは明らかであるため,控訴人は本件提訴に及んだものである。
4 争点4(被控訴人による相殺にかかる信用毀損に基づく損害賠償請求権の有無)について
(一) 被控訴人の主張
本件についての交渉中に,控訴人は,本件不正使用によるキャッシング30万円について,被控訴人に対する正当な貸付金を延滞しているという一方的判断による虚偽の情報を信用情報機関に登録し,被控訴人の信用を毀損した。被控訴人の抗議により上記登録が取り消されるまでの間,被控訴人が被った信用毀損による損害は次のとおりである。
@ 平成12年10月ころ,出光国際カードの申込をしたが審査が通らなかった。
A 平成13年3月中旬ころ,これまで10年ほど使用していた天満屋のカードについて使用拒絶された。
B 同年4月,出産のため銀行での借入を行おうとしたが,保証会社が保証を拒否しているとして,借り入れできなかった。
@ないしBにかかる損害は50万円を下らない。
被控訴人は,平成13年11月8日,原審第3回口頭弁論期日において,50万円の上記損害賠償請求債権を自働債権として,本件貸金債権と対当額で相殺した。
(二) 控訴人の反論
控訴人は,控訴人担当者が被控訴人から聴取した事実関係に照らし,本件貸付が正当なものと判断し,被控訴人に本件貸付の返済につき延滞があるため,本件カード契約における信用情報登録に関する合意に基づき,被控訴人の信用情報を登録するに至ったものであり,控訴人の判断は,客観的に見ても合理的であって,本件登録に違法な点はない。
また,被控訴人の主張する経済的・精神的損害について,本件登録との因果関係は認められない。

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第三 争点についての判断

一争点1(本件貸付は,本件カードの盗難によりされたものか。)及び2(本件カード又は暗証番号の管理について,被控訴人に重大な過失があるか否か。)について
1 原審において,証人A及び被控訴人本人は次のとおり証言あるいは供述する。
@ 被控訴人は平成12年3月11日当時,妻A,子供二人(当時9歳と4歳)とともに生活しており,これまで本件カードを用いて貸付を受けたことはなかった。
A 被控訴人は,同日,午前9時ころ,被控訴人所有の自動車を運転して妻とパチンコ店に行き,同店立体駐車場2階に停車し,本件カード等在中の被控訴人所有のセカンドバッグを同車のダッシュボードに入れて,鍵をかけ,同車ドアを施錠して,二人で店内に入り,妻は午前9時半ころ,歯科に行くため,同車に再度乗り,午前10時ころ再び同パチンコ店に戻り,同車を前記駐車場3階に停めてドアを施錠し(この間ダッシュボードには手を触れなかった),以後二人で午後8時半ころまでパチンコを続け,前記駐車場に戻ったところ,自動車の後部座席のサンバイザーが壊されて,開錠され,ダッシュボードがこじ開けられ,セカンドバッグや妻の運転免許証がなくなっていることが分かり,盗難の被害届を警察に届けた。
B 被害の内容は,セカンドバッグの中にあった封筒に在中の被控訴人所有の約30万円の現金,写真,被控訴人の運転免許証,本件カード,全日信販カード,イオンクレジットカード,デオデオカード(全日信販提携)及び妻名義のダイエーOMCカード合計5枚であった。
2 そして,原審証人Bの証言によると,ダイエー岡山店のCD機に設置のビデオカメラの本件キャッシング当日の映像には,被控訴人は顕れないことが認められ,また,別表記載のとおり,トマト銀行岡山駅前支店(JR岡山駅キャッシュコーナー)において,被控訴人供述の盗難の直後であり本件貸付の直前である平成12年3月11日午後2時31分,被控訴人供述の盗難被害にかかる全日信販カード(暗証番号は本件カードのものとは異なる)が使用されて,自動貸付機により30万円のキャッシング申込みがなされて暗証番号相違により利用拒否され,被控訴人供述の盗難被害にかかる本件カードの家族カードは暗証番号がなくキャッシングができないのに,キャッシング申込みがなされて利用拒否されたこと,さらに,ダイエー岡山店において,午後2時41分に本件カードを使用してリボルビング払いによる30万円の本件貸付がなされた後,本件カードが用いられて,同日午後3時30分,トポス柳川店において,16万3978円の商品がクレジット購入された後,さらに,同日午後3時33分,1万306円の商品がクレジット購入されようとしたが不承認となったことは前提事実に認定のとおりである。
3 他方,被控訴人供述の盗難被害にかかる本件カード,イオンクレジットカード,デオデオカードの暗証番号はいずれも,被控訴人の実家の電話番号下4桁の「≪暗証番号略≫」としており,何らかの方法で暗証番号情報が伝えられない限り,第三者において当該暗証番号を知ることはほぼ不可能であったことは前提事実に認定のとおりであるのに,イオンカード,デオデオカード,本件カードを使用した自動貸付機によるキャッシングについては,一度で正確に,当該暗証番号が入力されていることは前提事実に認定したとおりである。
4 そして,甲第15号証及び原審証人Cの証言によると,次のとおり認定できる。
本件カードについては,控訴人がクレジットカードの作成を委託する際に業者に渡す仕様書(クレジットカードに入力される磁気情報が記載されたもの)の「表面エンコードレイ。アウト」の中には「暗証番号」欄があるものの,ここにカード会員が届け出た暗証番号を入力することはなく,一律に「0000」と入力されており,このような扱いは平成7年ころからなされている。
また,上記仕様書の「裏面エンコードレイアウト」の中にも「暗証番号」欄があるものの,ここには,カード会員が届け出た暗証番号をビザカード又はマスターカードが独自の方法により暗号化した数値が入力され,届け出た暗証番号そのものは入力されない。
したがって,カード自体に会員の暗証番号が登録されるものではなく,また,ビザカード又はマスターカードが会員の届け出た暗証番号を暗号化して登録した番号から,暗証番号を解読するためには極めて高度の専門知識,技術が必要であり,仮に,そのような高度な技術を持ち合わせておれば,他の暗証番号を設定したカードについても暗証番号の解読が可能であるはずであり,家族カードのように,暗証番号がそもそも登録されていないカードについては,その旨容易に判明するはずであるし,他の暗証番号を設定したカードを使用するに際し,番号相違により拒否されるような事態が生じるのは不自然である。
そうすると,本件において,スキミング(カード中の磁気情報を写し取ること)がされた可能性はほぼないものというほかない。
5 一方,被控訴人は,本件カード等が盗難にあった際に,本件カードの暗証番号について情報を与えるような資料は本件カード等の近くには置いていなかった旨供述する。
6 以上の証拠関係に照らして考えると,暗証番号情報が窃盗をした者の関係者に伝わる事態が生じなかったとすれば,本件カード等の使用は,被控訴人あるいはその意を受けた者によってなされたものと推認するほかないこととなり,他方,本件カード等が盗難にあって,窃盗関係者によって本件カードの不正使用がなされたとすれば,暗証番号情報が窃盗関係者に伝わるような暗証番号の保管状態が存したものと推認せざるを得ないこととなる。
而して,本件カード等が盗難にあった旨の前記1記載の被控訴人らの証言あるいは供述が虚偽であると窺いうる資料はないことからすると,上記証言あるいは供述に沿った認定をするほかないから,暗証番号情報が窃盗関係者に伝わるような暗証番号の保管状態が存したものと推認せざるを得ないところである。
そして,前記1記載の証言あるいは供述によれば,被控訴人の本件カード保管については,重大な保管義務違反は認められないけれども,暗証番号情報が容易に窃盗関係者に伝わるような(例えば暗証番号メモを本件カード等の近くに置いたままにするなど)暗証番号管理についての重大な過失が被控訴人にあったものと推認せざるを得ない。
二争点3(本件訴え提起は権利濫用となるか。)について
クレジットカードを使用して商品を購入する場合には,カード所持人は,加盟店の店員に対しクレジットカードを提示して,伝票に署名すれば足りるのに対し,クレジットカードを使ってキャッシングをする場合にはカード所持人は,カードを自動現金貸付機に挿入し,さらに,4桁の暗証番号を正確に入力する必要があるという違いがあることは弁論の全趣旨から明らかである。
したがって,クレジットカードが不正使用されたことにつき会員に重大な過失があるか否かを判断するに際しては,キャッシングの場合には,カードの管理義務の点のみならず,カードの暗証番号の管理義務が問題となる。
そうすると,本件貸付については,カード管理上の重大な過失は認められないが,暗証番号の管理につき重大な過失があることが認められることは前記一に説示したとおりであるから,本件貸付について,商品購入立替金の場合の取扱と異なり,被控訴人に対し,支払を求めることには十分な合理性があることは明らかである。
してみれば,本件提訴が権利濫用に当たるものとは到底認められない。
三争点4(被控訴人による相殺にかかる信用毀損に基づく損害賠償請求権の有無)について
原審証人B,同Cの各証言及び弁論の全趣旨によると,控訴人は,控訴人担当者が被控訴人から聴取した事実関係に照らし,本件貸付が正当なものと判断し,被控訴人に本件貸付の返済につき延滞があるため,本件カード契約における信用情報登録に関する合意に基づき,被控訴人の信用情報を登録するに至ったことが認められ,前記二説示の当裁判所の認定に鑑み,控訴人の判断は,不当とはいえないから,本件登録は違法であるものとは認められない。
そうすると,控訴人による本件信用情報登録が不法行為を構成するものとはいえない。
四結論
そうすると,被控訴人は控訴人に対し,本件カード契約に基づき,本件貸付金30万円及びこれに対する弁済期の翌日である平成12年7月28日から支払済みまで約定の年29.2パーセントの割合による遅延損害金の支払い義務がある。

第四 結語

よって,控訴人の本訴請求は理由があるから,これを認容すべく,これを棄却した原判決は不当としてこれを取り消し,第1,2審の訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,61条を適用し,仮執行宣言については主文掲記の限度でこれを付するのが必要かつ相当であるから,同法310条本文を適用して,主文のとおり判決する。

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